結論から: 2026年第1四半期(1〜3月)まで「54期連続で上昇」していた首都圏の中古マンション成約価格が、5月に73ヶ月ぶりに前年割れへ転じた。在庫は3ヶ月連続で積み上がり、成約件数は2ヶ月連続で前年を下回る。一方、エリア別の賃貸成約データでは港区と足立区で2倍超の賃料格差が鮮明で、「どこで買うか」の判断がより重要になっている。
この記事の要点
- 2026年5月の成約㎡単価は 80.78万円/㎡(前年比▲3.9%):2020年4月以来73ヶ月ぶりの下落
- Q1(1〜3月)は成約価格 5,492万円で54期連続上昇:数ヶ月で急展開した
- 在庫㎡単価(114万円)と成約㎡単価(81万円)の乖離は約33万円:売り主の希望が通りにくい局面
- 在庫件数は3ヶ月連続増(45,804件)・成約件数は2ヶ月連続の前年割れ
- 賃貸成約:港区 5,990円/㎡(月22.6万円)vs 足立区 2,838円/㎡(月10.0万円):エリア格差が2倍超
- 東京郊外(埼玉・千葉)の賃料㎡単価は 2,086〜2,255円:利回りと取得価格の両面確認が必須





1. 市場全体の流れ:Q1は堅調、5月に急転換
2026年Q1(1〜3月)の首都圏中古マンション市場は、表面上はまだ堅調だった。成約件数は12,585件と前年同期比+1.6%で6四半期連続増加。成約㎡単価は86.26万円/㎡で23期連続上昇、成約価格5,492万円は1990年代初頭以来続く長期上昇サイクルの54期目を刻んだ。
ところが5月単月のデータを見ると、様相が一変する。
| 指標 | 2026年Q1(1〜3月) | 2026年5月 | 変化 | |------|-------------------|----------|------| | 成約㎡単価 | 86.26万円/㎡(+8.1%) | 80.78万円/㎡(▲3.9%) | 前年割れへ転換 | | 成約価格 | 5,492万円(+9.6%) | 5,067万円(▲4.6%) | 同上 | | 在庫件数 | 44,728件(+1.8%) | 45,804件(+3.4%) | 3ヶ月連続増 | | 成約件数 | 12,585件(+1.6%) | 3,709件(▲前年割れ) | 2ヶ月連続前年割れ |
Q1の「まだ上がっている」と5月の「初めて下がった」の間にある温度差こそ、今の市場を読むカギだ。
2. 「売り出し価格 vs 成約価格」の乖離が過去最大水準に
最も注目すべきデータが、在庫(売り出し)価格と成約価格の開きの拡大だ。
| 時点 | 在庫㎡単価 | 成約㎡単価 | 乖離 | |------|-----------|----------|------| | Q1(1〜3月) | 110.08万円(+29.9%) | 86.26万円(+8.1%) | 約24万円差 | | 5月 | 114.40万円(+28.8%) | 80.78万円(▲3.9%) | 約34万円差 |
在庫価格は依然として前年比30%前後の高水準で推移しているのに、成約価格は5月に下落へ転じた。つまり「売り主はまだ高値を提示しているが、それでは売れなくなってきた」という構図だ。
Q1時点で在庫価格は6,354万円(+30.6%)、5月時点では6,643万円(+30.3%)。これに対し、実際に取引が成立した価格は5月で5,067万円。売り出し価格と成約価格の差は約1,600万円に上る。
3. 需給バランスの変化:転換点はいつ来たか
在庫の変化を四半期・月次でたどると、転換点が浮かび上がる。
| 時期 | 在庫件数(前年比) | 成約件数(前年比) | 新規登録(前年比) | |------|-----------------|-----------------|----------------| | Q1(1〜3月) | +1.8%(8期ぶり増) | +1.6%(6期連続増) | ▲(9期連続減) | | 4月 | +(推計増加傾向) | ▲(前年割れ) | 、 | | 5月 | +3.4%(3ヶ月連続増) | ▲(2ヶ月連続前年割れ) | ほぼ横ばい |
新規登録は9四半期連続で減少(供給が絞られている)にもかかわらず、在庫が増え始めた。これは「成約スピードが落ちて、売れ残りが積み上がっている」ことを意味する。
売り手市場から均衡、そして買い手優位への転換が静かに始まっているとみていい。
4. エリア別賃貸成約データ:格差はどこまで広がっているか
東日本レインズの地域別報告(2026年1〜3月)より、賃貸マンション・アパートの成約㎡単価を区・市別に整理した。
東京23区 マンション(成約㎡単価)
| エリア | 月額賃料 | ㎡単価 | |--------|---------|--------| | 港区 | 22.6万円 | 5,990円/㎡ | | 千代田区 | 18.9万円 | 5,664円/㎡ | | 渋谷区 | 17.4万円 | 5,184円/㎡ | | 23区平均 | 、 | 3,947円/㎡ | | 世田谷区 | 、 | (3,000円台前半推計) | | 足立区 | 10.0万円 | 2,838円/㎡ | | 江戸川区 | 10.8万円 | 2,810円/㎡ | | 葛飾区 | 9.0万円 | 2,885円/㎡ |
都心3区(港・千代田・渋谷)は㎡単価5,000円超。東部・北部(足立・江戸川・葛飾)は2,800〜2,900円台と、同じ「23区」でも最大2倍以上の格差がある。
首都圏主要エリア比較(マンション)
| エリア | ㎡単価 | |--------|--------| | 東京23区 | 3,947円/㎡ | | 横浜市(中区) | 3,369円/㎡ | | 川崎市(幸区) | (アパート3,115円/㎡) | | 埼玉県 | 2,255円/㎡ | | 千葉県 | 2,086円/㎡ | | 横浜市(栄区) | 1,625円/㎡ |
同じ「横浜市」でも中区と栄区では約2倍の開きがある。「神奈川」「埼玉」などの括りで物件を検討すると、エリア内の格差を見落とす危険がある。
5. 投資家への3つの示唆
① 「値引き交渉」が通りやすくなってきた
在庫㎡単価(114万)と成約㎡単価(81万)の乖離が広がり、売り出し価格が通らない案件が増えている。5月の成約価格は前年比▲4.6%と実際に下落した。これは売り主が価格を下げなければ売れない局面に入ったことを示す。
「定価での即決」を求められる物件よりも、「在庫になっている物件」の方が値引き余地が出てきている。特に6〜9月は不動産の閑散期で、さらに交渉しやすくなりやすい。
② 賃料はエリア格差が拡大中:「エリア一択」で語れない
賃料㎡単価の格差(港区5,990円 vs 千葉県2,086円)は約2.9倍。首都圏全体の平均値で「利回り何%」と計算しても意味がなく、取得対象物件のエリアの賃料水準を個別に確認する必要がある。
③ 「売り出し価格への警戒」が最重要
在庫価格は依然として前年比+28〜30%の高水準。売り出し価格が実際の成約相場と1,500万円以上乖離しているケースがある。一般の相場感より高い価格で提示されている物件に対して、独立した診断ツールで妥当性を検証することが、今の市場でリスクを下げる最も確実な手段だ。
まとめ:市場の「転換点」を正しく読む
東日本レインズの最新データが示す2026年の首都圏不動産市場の姿は、一言で言えば「数字の内側に矛盾が生まれ始めた局面」だ。
- 季報では「54期連続上昇」が続いていた
- 月次では「73ヶ月ぶり下落」に転じた
- 在庫は増え、成約は減っている
- 売り出し価格は高止まり、成約価格は下押しされている
この「矛盾」は、市場が一方向に動き続けていた時代の終わりを告げている可能性がある。転換期ほど、個別物件が適正価格かどうかの判断精度がパフォーマンスを左右する。
本記事は東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が公表した月例速報・季報・地域別成約状況(いずれも公開資料)の数値・事実をもとに、当社編集部が独自に要約・分析・再構成したものです(原文・図表の転載ではありません)。正確な数値・グラフは出典の原文PDFをご確認ください。
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